ユーザーズボイス:森本様
「もういつ死ぬかわからんがやから、どんどん使わなね(笑)」
そういって、沢山の輪島塗をみせてくださった若々しく美しいお母様は、輪島のご出身。
ご自身の嫁入り道具の輪島塗も多数のほか、森本家に伝わる年代物の漆器などを、特別な時(正月や来客など)だけでなく、日常生活で、どんどんお使いになっています。
「輪島塗は、何かの時にこそ使おうと仕舞っておいて、肝心な時に使おうと思ったら、どこいったか出てこんもんや(笑)」
「子供のころから使っていますから、輪島塗は身近なものです。毎日あるのが、当たり前」とは、息子の敬一さん。
ご自身の経営するガソリンスタンドを訪れるお客様に、一息ついていただける店づくりを、と、店内には随所に細やかな心配りが見られ、お茶のサービスには輪島塗の茶托や盆を使用されています。
「自分たちで改装した」という店内は、天井が高く開放的な空間。
こだわりのグッズや、ちょっと変わったものがいっぱい。
また地元穴水の郷土力士・遠藤関応援グッズなども展示し、地元のお得意様だけでなく、観光で訪れるお客様にも大変喜ばれています。
石川県鳳珠郡穴水町は、能登半島の中央に位置する、人口約1万8千人の、輪島から車で約30分の街です。
この穏やかな内海に面した穴水町で森本さんが営むガソリンスタンドは、創業90年。
お母様の裕子さんは、「顔も体も油で真っ黒にして、お父さんと働いたわいね」と、ご主人を偲ばれました。
「ああ、懐かしいねー」
しまってあった輪島塗を見せてくれる、と開いた和紙包みには、弊社の懐かしい印がありました。
お母様は、次々に箱や包みを開けながら、時間が巻き戻されたかのように、懐かしい思い出が次々浮かばれたようで、息子の敬一さんや私に聞かせてくださいました。
「これは、あの子の結婚が決まった時に、姉さんがくださった椀やよ」
「昔はこんな下駄も、つま先にカバーのかかった下駄もあったねー」
「あら、この家紋は、お母さん方の実家の家紋やわ」
「若かったころは、お客さんやと言えば、一生懸命お料理して、輪島塗でおもてなししたもんや。」
「箱に入れといたらね、わからなくなって使わなくなるから、使いやすいものをまとめてここに置いてあるの」
「これ使いやすいね、店で使おうか」
「これ、何の貝?どんな技法?」「白蝶貝です、波は銀色でした、銀みがきで磨いてみて。きれいになります」
家族に長らく伝えられる大事な宝物:輪島塗
輪島塗を囲んで、お母様が息子さんへ、家族の歴史を語り伝える様子を間近で拝見し、とても嬉しくなりました。
輪島塗は、こうして思い出とともに家族に長らく伝えられる大事な宝物なのだなーと、胸が熱くなり、同時に塗師屋として、いい輪島塗をお納めしなくては、と大きな責任を感じました。
お母様が、ちょうどお子様方が自立されゆとりができた頃にお求めいただいた輪島塗のサイドボードには、亡きご主人様の趣味のジオラマ作品が、ところせましと飾ってあり、ご家庭になじんだ輪島塗を嬉しく拝見しました。
目が肥えてくると、自然と輪島塗に目が行く
「娘は、忙しくて輪島塗など使っていられない、っていうけど、子供の小さい時は確かにそんなもんや。手が離れて心や時間にゆとりができたら、しぜんと目が向いて使いたくなる。それまで預かっておくの」
「次第に年を重ね、人生経験をつんで目が肥えてくると、自然と輪島塗に目が行く。」確かにそうかもしれません。
息子の敬一さんは、ガソリンスタンドの忙しい業務のほかに、保険代理店と兄弟会社の有限会社クリエイトを経営。
町おこしにも大変熱心に情熱を傾けられ、穴水町名産の牡蠣を使ったチャウダーやカレーを開発したり、能登ワインのぶどうの葉を使った石鹸や、ポリフェノールたっぷりのハーブティーを開発されました。
また美味しいもの好きも手伝って、チーム能登喰いしん坊の皆さんで、実際に屋台を出して、穴水の美味しいものをアピールする活動もされています。
堪能な英語を活かして、金沢で活躍されていた版画家・クリフトンカーフ氏の遺作の管理販売の会社のお手伝いもされているという、寝る時間はあるのかな、と思われるほど大忙しの才能あふれる大活躍ぶりです。
この機会に、衝立を修理しようか
森本家を訪れるお客様の目にまず飛び込んでくるのが、輪島塗の衝立:渓流の図蒔絵です。
この衝立は、森本家の玄関を開けると、日差しが降り注ぐ明るい正面に置いてあり、漆黒と蒔絵の美しさに見とれます。
「日差しの強い夏場は気を使って、裏表を逆にして使って、蒔絵を守っとる」とお母様。
しかし、漆は直射日光に弱く、衝立の表面は漆が劣化して艶が無くなっていました。
数年前に一度お預かりして、表面の艶上げ直し修理を致しました。
「前の修理から8年ほど経つかね~。もうそんなに経つんやね~」
「年をとるはずやわ(笑)」
「そろそろまた綺麗にしてもらおうか」
輪島塗のお話を伺った後、修理の為に玄関の衝立を預かって帰りました。
衝立は、修理の後はまた末永く、森本家の顔として、お客様を迎えてくれます。
何かの機会に、輪島塗のメンテナンス。そしてまた末永くご愛用ください。
創業90年の能登では古いガソリンスタンドです。
日々のお店の出来事や地元穴水町のこと、能登牡蠣チャウダーや能登ぶどう葉茶などおいしいもののことなどを紹介しています。
編集後記(輪島漆器大雅堂株式会社:若島基京雄)
この度沢山の輪島塗を拝見した中には、私の父や祖父が製作した輪島塗があり、長らくぶりに対面して感動しました。その当時に流行っていた蒔絵の技法や、珍しい技法、色、形などを拝見し、勉強になりました。使った後の輪島塗のしまい方の、ちょっとしたコツをアドバイスができたこともよかったです。これからも修理やメンテナンスなどで、どうぞ末永くお付き合いをお願い申し上げます。
若島基京雄(わかしまきみお)
全国を行商して歩いた祖父・父は、旅先で大変可愛がって頂き、現在でも祖父・父を知るお得意さまが多数ございます。
祖父・父は、「物がなくても売る」達人 営業マンでした。
お客様の前で輪島塗の器の仕上がりのイメージを、すらすらと絵に描いて見せ、仕上がった見本が無くても注文を取りました。器の形や色、蒔 絵・沈金の模様まで、その場で細かくうち合わせができ、仕上がった品は、大変お喜び頂いたそうです。
私もそうなりたいと、自己流ながら勉強し、輪島の技法の全てを頭にたたき込み、
お客様の求める物のイメージを形にしたい、と思っています。
現在は、器物の 形から、蒔絵・沈金の図案までお客様のご要望に合わせ、
自分で作図して制作にあたります。
頭の中で見える仕上がりの姿を、木地師から蒔絵・沈金師に細かく 指定し、
喜ばれる、そして末永く愛して頂ける輪島塗を生み出していきたいと考えております。
輪島漆器商工業協同組合 組合員
石川県輪島漆芸美術館 友の会 事務局長
合気道 奥能登合氣会 会長
輪島漆器大雅堂株式会社 代表取締役